営業という職種は、なぜこれほど不人気になったのだろうか。顧客と直接向き合い、会社の売上そのものを作り出す仕事であるにもかかわらず、就職・転職市場での人気は決して高いとは言えない。
かつて営業は花形だった
営業出身者が輩出されてきた企業を振り返ると、リクルート、光通信、キーエンスといった、営業力の高さで知られる大企業が並ぶ。こうした会社で数年間営業を経験した人材は、営業力のある人材として広く評価され、転職市場でも引く手あまたになりやすかった。
この構図自体は今も一定程度残っている。しかし、以前と比べると、いわゆるトップ大学出身の学生が営業職を第一志望に選ぶ傾向は弱まってきている。給与水準の高いコンサルティング職は別としても、プロダクトマネージャーをはじめとするIT関連職の人気の高さは、以前とは異なる潮流を感じさせる。
PLG(プロダクト・レッド・グロース)という潮流
この背景の一つに、PLG(Product-Led Growth)という考え方の広がりがあるのではないかと思う。
PLGという言葉自体は、2016年頃にOpenView Partners社のBlake Bartlett氏が提唱した言葉で、今からおよそ10年前にあたる(OpenView Partners)。1社1社に営業担当が足を運んで契約を獲得していく従来型の営業スタイルに対し、プロダクト自体の使いやすさや価値によってユーザーを獲得・拡大していくというこの考え方は、SlackやDropboxといった、無料プランを起点に利用を広げていったサービスの成功によって、SaaS業界を中心に大きな支持を集めた(Dovetail)。
こうした動きが、頭脳明晰でロジカルな思考を好む人材にとって、営業よりもプロダクトマネジメントのような職種の方がフィットしやすい、という空気を後押しした面はある。1件1件アプローチを重ねる営業スタイルよりも、プロダクトの設計そのものによって効率的にユーザーを獲得していくという発想の方が、合理的でスマートに映るのかもしれない。
それでも、営業を軽視するのはもったいない
ただ、この流れには少し立ち止まって考えたい面もある。
実際にPLGで大きな成功を収めたサービスの歩みを見てみると、必ずしも最初から自動的にユーザーが増えていったわけではないケースが多い。例えばSlackは、2016年時点では従来型の営業組織を持たない方針を掲げていたが、企業向けの大型契約が売上の中心になるにつれて、次第にセールス主導の動き方を組み込んでいった(Business Insider経由の報道)。プロダクト起点の成長を実現した企業の多くも、事業が拡大する過程のどこかで、顧客に直接向き合う営業的な機能を取り入れている。
また、創業初期の段階で、経営者自らが手を動かして顧客に売り込み、その中で得た生の声をプロダクト改善に反映させていく、というプロセスは、スタートアップの世界でもしばしば語られる定石だ。スケールしない泥臭い動きを厭わず、顧客と直接向き合うことから始める、という考え方は、シリコンバレーの起業論でも古くから重視されてきた。
つまり、PLGという成長モデルの裏側にも、顧客の声を丁寧に聞き、顧客に最適な形で価値を届けるという、営業そのものの本質的な営みが息づいている。プロダクトが「勝手に」広まっているように見える裏側でも、初期には誰かが泥臭く顧客と向き合っている場合が少なくない。
営業は、ビジネスのすべての基礎になる
営業という仕事の本質は、顧客の声を聴き、顧客にとって最適な提案を行うことにある。この営みは、PLGであろうと、従来型の営業スタイルであろうと変わらない。プロダクトの形を変えて届けているか、対面や電話で届けているか、その手段の違いがあるだけだ。
近道のように見える成長戦略であっても、その根底には地道な顧客理解の積み重ねがあることが多い。だからこそ、将来的に事業を作りたい、起業したいと考えている人にこそ、一度は営業という仕事を経験してみることをおすすめしたい。顧客と直接向き合い、対価をいただくという経験は、どんな職種に進んでも生きる財産になる。
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